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03 - 秘伝のエキス

「ねえ」私が鼻声でたずねた。『…何ですか?』少し怯えた様子で C202SA が言う。

「経済の動画観ててわからないことあったから教えてよ」

『はい?』

まるで予想外の言葉に、 C202SA が驚く。『あの、ぼくに経済のこと聞かれてもわかりませんよ』

C202SA の返事などおかまいなしに私が言う。

「法人税ってあるじゃん」『はい』「法人税を上げると儲けが減るから給料が上がらなくなる、っていうのはなんとなくわかるんだけど」『はい』「逆に法人税下げたら給料って上がるのかとか、実感としてどうなのか知りたい」『法人税と給与の関係ですか?』「うん」

『それは会社によって違うと思います』

フッと、空気が一変した。

『儲けを社員に渡すか、会社に貯めておくかの違いですね。税制や社会が変わっても、企業は部下とその家族を食べさせていかなきゃいけません。先に儲けを渡して部下に任せるというやり方もあれば、貯めておいて社会がピンチになったときに吐き出すというやり方もあります。だから会社の方針次第ですね』

「君の場合はどっちを取る?」『ぼくの場合は前者です』「前者?」『社員にすぐ還元するほうです』

C202SA の鋭い返事に私の胸が高鳴る。私は次の質問を投げかけた。

「じゃあ、消費税が上がったらどう対応する?支払いとか」
『対応というか、システムに入力すれば出してくれますから、そう大きく変わることはないですよ』
「ありがと」

ふ、ふふふ。ははははは。

私は心の中で高笑いした。身体がムズムズした。思ったとおりだ。

コンピュータには持ち主の記憶が宿る。小さなクセから、性格や生活習慣に至るまで。私に合わせ C202SA の性格が真面目になったように、他人が使えばその人に合わせて変わる。そう思った私は、短期間で性格がうつるような荒々しい人物に C202SA を託した。

作戦は見事大成功。

C202SA は二週間の旅で老将の記憶を持ち帰ってきた。本や論文では得られない『現場』の結晶だ。私がその記憶を上書きしてしまう前に、なんとしてでもいろいろ学ばなければ。

私はひとつの動画を画面に映した。

【三橋貴明×山本太郎】Part1 絶対にTVでカットされる国債の真実

すると山本太郎が映るやいなや、C202SA がコルクを抜いたシャンパンのようにしゃべりだした。

『あー、こいつでしょ?なんか最近消費税がなんだとか』「えーと、それはそうなんだけど」『消費税を無くすとか税がなんだとか言いますけどね、ぼくは必要があれば増税してもいいと思ってます。でも取るなら!使い道をはっきり示す!それで』

しまった。初手を間違えた。やはり太郎は劇薬なのか。火のついた C202SA のマシンガントークに、反射的に私の耳が閉じてしまう。なんか色々言っているけど全然聞き取れない。これが『そんな話はどうでもいい』というやつだ。困った。せっかく相手の話を聞こうとしているのに、私の心が壁を作って理解を拒否している。きっとこんな話を我慢して聞ける人が、もしくは右から左に笑顔で流せる人が、カウンセラーやアイドルになれるんだろうな。

「えーと、重要なのはこっちの方で」なんとか話をそらそうと、私はメガネの男をマウスカーソルで示す。「この動画はこの人の授業みたいな感じだから、山本太郎の方はどうでもいい」

『ふーん』

C202SA の生意気な態度にイラッとしながらも、私は話を進める。

「一応、太郎の政策にも関わる話っぽいんだけど、私は素人だから、どこまで正しいのか判断がつかない。だから、直感と違うとか、現実から外れてるとか、そのへんがあれば教えてほしい」
『なるほど、そういうことですか。わかりました。どうぞ、再生してください』

ふう。

心のなかで汗を拭き、深呼吸した。



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