17th

17 - 商品の対価

breakdown
出典: 国債等の保有者別内訳 (平成31年3月末(速報))


「うーん…」

私は 国債等の保有者 のグラフを見ながら困っていた。

「なんでこれで破綻するんだろう…」

それは本心だった。誰をからかうわけでもなく、ばかにするのでもなく、本当の本当にわからなかった。私が幼稚園児だとして、これまでに配った 10 枚の肩たたき券のうち、親に 5 枚、親戚に 4 枚、友達に 1 枚。親なら何枚でも肩たたき券をもらってくれるし、泣きつけば使わずに取っておいてくれる。親戚だってもっともらってくれる。親戚だし。それに私の肩たたきは上手だって大人気だし。うーむ。これでどうやって券の出しすぎで私が破産できるのか。

『あのー』

おずおずと C202SA がたずねてくる。『アタマはスッキリされました?』

「あ、そうだった」

私は空になったペットボトルを振ってみせる。

「国債はもう刷れない、破綻の瀬戸際、って思ってるのはどういう考えでそうなってるのか、なんとなくわかったかもしれない」
『はい、しっかり聞きますよ。どうぞ!』
「あはは、何それ」
『だってその言い方、あなたが話の整理がついてないときの言い方ですからね』
「よく知ってるじゃん」
『そりゃあ、ずっと一緒ですもん』
「はぁ〜…」

私は耳まで赤くなってしまった。


「えーと、全員に当てはまるわけじゃないんだけど、『これ以上刷ったら破綻する』と不安に思っている、とくに何十年も一線で働いてきた人、にある程度共通するんじゃないかなと思ったことがあって」

現代の貨幣は中央銀行の債務です。そして、この債務の価値は中央銀行の資産にある商品によって支えられています。

「これは MMT の本で批判されている商品貨幣論ではありません。マルクスの商品貨幣論です」
『ええと、意味を説明してもらえますか?』
「一言でいうと、政府が国債を発行できるのは、政府が持ってる商品を担保にしているから。管理通貨制度の方針とも一致するんだけど、『裏づけがなければ国債は発行できない』の『裏づけ』はこのへんから来てるんじゃないかと思う」
『借金って担保が必要ですもんね』
「うん。商品の数以上にお金を刷っちゃったら、信用がなくなると思ってるわけね」
『なるほど。企業家らしい考え方だと思います』
「企業家?そーか、言われてみればそうかも」

彼らは国家運営を会社にたとえているのか。たしかに国債を社債と同じように考えているなら、GDP 比 200% 以上の債務なんて心臓が飛び出すほど恐ろしい。いつ債務不履行になるか震え上がるのも当然だ。

『ちなみにお金の量はもう商品の額を上回っちゃってるんですか?』
「うーん、わかんない。まず政府の資産だけなら 647 兆円。次に政府の借金は半分くらい子会社が肩代わりしてるから、連結決算で相殺される。そうすると残った借金は550兆くらい」
『なんか大丈夫そうですね』
「どうなのかな。数字だと大丈夫そうだけど。次に、『もしものときの国民資産没収!』って場面を考えるともっとわからなくなる。彼らの言う商品に『預金』が含まれているかわかんないから。預金て利子つくから商品だと思うんだけど、私たちの預金は国債発行した分だけ増えるので (6 話参照)、理屈では商品を無限に増やせちゃう」
『なんかこっちは入れちゃダメな感じしますね』
「そう思うじゃん。でも預金と国債は裏表の関係だから、預金を除外すると政府の借金も除外しなきゃいけなくなる」
『???』
「たとえば政府が 1000 兆円の借金を返済すると私たちの預金も 1000 兆円消える。一心同体だからどちらか一方を外すのはダメ」

そう。国家という会社の社債を返済すると、その分、従業員の預金が消滅する。社長もビックリ!でも事実。国家運営に企業の常識は通用しないのだ。

『なんか数字のトリックにだまされているような、不思議な感じがします』
「ねー。こういうあーでもないこーでもないって考えるの楽しい。『直ちに解けない難解な問題に直面しても、踏みとどまって考え続ける知的な忍耐力が要されるのです』、ってね」
『ぼくもあなたのそういう顔が見れて嬉しいです。ずっと暗い顔してましたから』
「…照れること言いやがって。食っちまうぞ」
『ひえー』


「それともうひとつ。『刷りすぎたら円の価値が暴落する』って考えは、株の恐慌を頭に描いてると思う」
『株価暴落ってやつですか?』
「うん。恐慌は突然起きる。ストンて落ちる。リーマンショックでは世界の株式の 6 割が消えたそうな」
『ひぃー』
「国債についても同じように思ってるのかもしれない」
『それが起きる可能性はありますか?』
「わかんない。日銀や国内の銀行がある日突然買わなくなるかって?」
『はい』
「子会社の日銀が親会社の政府を見捨てるって?」
『はい』
「銀行だって国債買った分が当座預金に返ってくるのに?」
『なさそう、ですかね』
「なんか、考えれば考えるほどありえない感じがする…っていうかさ、三橋が『テレビじゃカットされる』って言ってたのが国債保有者の円グラフだったから、国債がほとんど国内で回ってるっていうのは知られてほしくないことなんじゃないの」
『カットされるのはデタラメだからだ、とか』
「財務省のホームページに載ってるのに、デタラメなわけないでしょ。失礼なこと言っちゃダメだよ。…むうー、国内で買われてるのにどうすれば暴落するんだろう。内戦とか地震とかかな。供給が壊滅するし。でもそれって借金額とは関係ないよね」
『じゃあ、経営者の方にさっきのグラフ見せればいいんですかね。国内で買われてるので暴落なんてありえませんよ、って』
「そういうときは全然納得しないか、理解した人は私に消費増税の怒りをぶつけてくる」

ねぇ皆さん、その怒りの拳は日本の政治にぶつけてください ―― 山里亮太



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